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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『土民共、静かにせい』
『土民とは何じゃ。浅野家の米一粒食ったわし等じゃないぞ』
『まあ、穏かに聞こう。一体、其方共は、何処の者だ』
『吉良家の領民じゃよ』
と、寺子屋師匠らしい杖を持った先刻の老人が、昂然と答えた。
その杖を、また上げて、一方を指しながら、
『ここから南へ一里半、幡豆郷、乙川、小宮田、横須賀、鳥羽、岡山、相場、宮迫の七村は、足利氏の昔から吉良氏の領地じゃ――知らぬようだから教えておいてやろう。郷の北に八ツ面山というのがある。そこから雲母を産するので、遠い昔からこの地方を、吉良の県とよび、吉良の庄とも唱えてきたのじゃ。――御当代、上野介義央様まで、十八代七百余年、一度も、領主を替えたことのない吉良家の領民じゃ。戦国で成り上った新しい大名の分家筋などとは、ちと違うぞ。わかったか』
『うむ……してそれから?』
『聞けば、其方の主人内匠頭とやらいう浅慮者が』
聞くに堪えかねたとみえて三平が、
『老ぼれッ、無礼だぞっ』
と、弦のように、柄手の肱を張った。
藤左衛門は制して、
『黙っておれ三平。何か云い分でもあるらしい。朴訥な領民の声だ、聞いてやるくらいな寛度は持ってもよい』