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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
何といおうが、通すなよ、皆の衆』
明々といつか夜明けの雲は展けている。やがてもう往来も繁かろう。時刻は遅れるのみである。
事ここに迫っては、無難にすもうとも思われない。藤左衛門も遂に、やむを得ない事態を認めないわけにゆかなかった。
だが、飽くまで、気色は静かに、
『然らば、宿役人をこれへ呼べ。或は、岡崎まで同行いたして、立会を乞うてもよい。何としても、一刻を急ぐ体、もはや、言葉の争いに、関っては居れぬ』
『痴けた事。宿役人の立会しようなど、常の争いと思うて居くさるのか』
『どうあっても、其方共は、聞き分けぬと申すか』
初めから穏かな藤左衛門が、少し胸を張って、鋭い眼を光らすと、これは萱野三平が刀の柄へ手をやったよりは、ぎくとしたとみえて、群衆は浮き腰になって、
『通すなっ、通すな』
叫び合いつつ、石を投げ初めた。早駕の人足達も又、息杖を振り被って、
『この野郎っ』
一つの杖は、三平の背後から来たし、三平は藤左衛門に肱をつかまれていたので、ぴしっと、肩を打たれた。
藤左衛門は、三平の手を放した。そして、
『斬るなっ、投げ飛ばすのだ!』
と云って、身を翻えした。