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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

丸っこい顔に、どこか子供っぽい眼をしていて、それで毛が強いので、髯を剃った後は、よく顎に血をふき出している。

『わあっ、寝た、寝た』

独りで、愉快そうに云って、どす、どすと土間の方へ歩いてゆく。

下駄を、足で探って、突っかけると、番所小屋の戸をがらりと明けた。

『なんだ、まだ暗いのか』

明けただけの空に、星がいっぱいだった。しかし、面に触る空気はもう夜明けを感じさせる。

ここは、赤穂城のうしろにある脇山の頂きだ。藩の煙硝庫があるので、見張人が詰めているわけである。横川勘平は、五両三人扶持の軽輩で、役名は徒士、仕事は、この山の上の煙硝番だった。

小屋の横に、小屋を建てる時に切り崩した崖がある。そこから冷たい清水が湧いていて、筧で台所へ引いてあった。

勘平は、竹樋を外して、

『がぼっ……』

と、水を鳴らして、口へ入れた。

『あ、わ、わ、わ、わ』

嗽いをして、虹みたいに吐いた。

それから、番所の前の崖際に立って、両方の手で、大きな脇腹を抑えた。屈んでみたり、反ってみたり、首を振ってみたりしている。何をやっているつもりか、彼の料簡はわからない。

雲の裂け目が、鰹の皮のように青く光っていた。