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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

闇の底から白いすじが、幾すじもゆるやかに立っているが、それは、赤穂の浜の塩田で塩を焼く煙りであった。その辺りから、備前の国境の方へ、白く蜿蜒と果を消しているのが、海岸線と見て間違いはあるまい。

『おやっ?』

勘平の丸っこい眼が、何か見つけた。

『――何だろう? 今頃』

本街道なら珍しくもないが、播州路から岐れて高取越えを経た上、千種川の渡船をこえてこの城下へと入る赤穂街道を、一かたまりの提灯が、暁闇の中を走って来るのである。

随分、宵も、夜半も、ここには立つけれど、横川勘平はまだ、こういう現象を見たことがない。

『提灯だとすると、尠くも十二、三……。はてなあ?』

片目をつぶって、眸の前に指を立てた。その方法で、灯のすすむ速度を測ると、ただ歩いているのではなくて、およそ人間の脚としては、最大の速さで城下へ来るものらしい。

更に、凝と耳をすましていると、近づくに従って、えい、えい、というような声が風の絶え間に微かにするようである。

『早駕だっ』

勘平は、小屋の中へ、駈けこんだ。

そして、隅にもう一人寝ている男の蒲団をめくって、

『同役、起きろ』

『む……横川か……眠い』