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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
時刻は、正に寅の下刻(午前五時頃)だった。わずか四日半で着いたわけになる。二人は勿論、瀕死の病人に等しいものだった。
大石家では、早駕がつく少し前に、先触れの人足が、門をたたいて、
(江戸表から、御急使が着きまする)
と告げたので、
(何事?)
と家族たちは、一人のこらず起きて、早駕の着くのを胸とどろかせながら待ちうけていたのである。
厨では、粥を煮、式台には、妻女のお陸だの、主税だの、召使たちもこぞって出ていた。そして駕籠を見ると、
『早水様に、萱野様か』
と、初めてその人を知り、用意しておいた薬湯を与えるやら、草鞋の緒を解かせるやら、手をとって式台へ上げるやら、真心をこめて労わったが、内蔵助は声もせず、そこに、姿も見せない。
『御子息、勿体ない……。御挨拶は後に』
藤左衛門は、主税に向って会釈をしたり、お陸に対しても、気丈さを示して、よろめきながらも自身で通ったが、三平の方はまったく、呼吸があるだけの容体だった。召使が、背に負って畳の上まで運んだ程で、その畳へ、べたっと手を落すと、
『ああ……』
あやうくそのまま意識を失ってしまいそうにすら見える。
藤左衛門は、三平の気を励ますように、わざと大きな声で云った。