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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『御家老は、はや、お目ざめでござりましょうか』

『はい、書院にひかえて、最前から、お待ち申しあげて居ります』

と、お陸が答えた。

ぴんと、弦をかけたように、三平は胸を上げた。脇差の笄をぬいて、手ばやく、四日半の乱髪を梳でつけ、又、襟元の衣服の皺を、袴の下へきちっと引きのばして、

『……お取次ぎ下さいましょう』

と、初めて云った。

奥の書院は、いつもの朝のように新鮮な夜明けの光と、静かな気勢がながれていた。しかし、膝行り入るようにそこへ通った二人の使者は、仮面のように、怖い顔をして坐っている内蔵助の顔を仰ぐと、今にも、何か大きな叱を浴びせられるような気に打たれて、はっと、心を醒ました。

内蔵助は、その顔つきの儘、

『何事も、余事は申すに及ばぬ。早駕の儀、心もとのう存ずる。それのみを、一言にて仰せられい』

『去る十四日、江戸城に於かれて、殿様、御刃傷に及ばれました。あらましは、片岡源五右衛門殿からの、この御書面にござりますが、私ども両名は、騒ぎの勃発と同時に、即刻、江戸表を発しましたゆえに、殿様、御処分のこと、その他は、さらに、後より追い早駕を以て、何人か、到着いたす筈にござります』