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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『ふ、腑に落ちん御処罰だっ』

『喧嘩両成敗は、江戸幕府の、殿中に於ける鉄則ではござらぬか!』

『しかも! 吉良は、吉良は一命も、無事な上に、御優諚をうけて、退出したという……』

『片手落ちだっ』

上ずった声が、方々から激発して、中には、主君の御無念さを思うと、凝としていられない、慟哭して、人影に沈んで嗚咽する者もあった。

『御家老! 御城代! すでに大事は定まった、このうえのお覚悟は、何となさる御決心か』

はやくも、膝を詰めよせる若侍があるし、

『迂濶者っ、そんなことを、この期に糺す要があろうか。士道にふた道はない、藩祖以来の城を枕に、死ぬだけのことじゃないか』

と、同僚の愚を、うしろの方から罵倒する声もあった。

渦まく瀬へ、一抱えの落葉を投げこんだように、その奔激の相は、同じであっても、落葉の一葉一葉の驚きや、動作や、意思は、各違ったものであった。極度に充血した顔と、極度に血の気を失った顔と、また無表情に茫然としている者と、自分の一身に汲々と捉われている眼つきと、何ものも考えずにただ怒ってのみいる感情と――殆ど、瀬の渦に巻かるる落葉の片々たる浮沈のすがたのように、収拾のつかない、ここの喧々囂々さであった。