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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
江戸表からはその後、二回の町飛脚が着いて、浅野大学の閉門の事と、藩邸立退きの終った報告があったのみである。そして城中への召集もなかった。残務に当っている一部の者は、極端な劇務に趁われ、閑役の者は、門扉を閉めきって、主君の喪に服しているほか、なす事もなかった。同族の三次の浅野家でも、芸州の広島でも、鳴物停止があったというから、勿論、ここでは享楽的な音響は一切しない。すべての世間音というものが、すっかり変ったように、人心も一変したかのように見える。けれど、百姓は百姓道に、町人は町人道に、生活の迷いはなかった。何といってもこの際、試されているものは武士だった。今の社会の中堅と統治力は、実は、将軍家にも領主にもあるのではなかった。旧制度の中で忠実に、粗衣粗食している武士というものの力である。江戸へ出れば勤番者だの、浅黄裏だのと、野暮の代名詞にされている人々の支えだった。それらの人々のうちにはまだあった武士道と呼ぶものに、一般庶民の信頼も残っていたのである。もしそれが日頃の誓約や態度とちがって、裏切るようなことでもあったら、嘲笑ってやろうという気振さえ見えないこともない。