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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

そちの祖父様や祖母様の御命日でも、精進をするではないか』

『でも、田螺は、魚とはちがう』

『生物じゃ』

『生物といえば、菜でも、大根でも』

『理窟をいうものではない。よい子だから、捨てて、そこの流れで手をお洗いなさい』

惜しそうに吉千代は田螺の苞を捨て、手を洗ってその手を袴でこすった。

『お、正福寺の和尚様がいる』

二人は十間ほど大股に歩いて立ちどまった。朽葉色の汚ない法衣は、法衣の形をしていないほど着古されている。例の良雪和尚なのであった。少年達が後へ立ったのも知らないで小川の岸の若い草を摘んでは片方の法衣の袂へ入れていた。

『良雪さん、何してんの?』

吉千代がよぶと、

『ほう……』

振向いた顔は、一目で少年たちの心を吸い寄せてしまう。明るく和らかで、そこらを漂っている春の風は、この童顔の人のふところから吹いてくるのではないかしらと思われる。

『どこへ行ったんじゃ?』

と、良雪が問う。

吉千代は、城下町の背を囲んでいる山の影を指して、

『大鹿谷へ』

『何しに』

『帆坂峠と鷹取越の方に、姫路や岡山や高松や、諸国の兵が、たくさんに押し襲せて来たというから、兄様と一緒に見に行って来たの』