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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

(この上は、赤穂と合体して、共々、城を枕に――)

と、一途に百六十五里をやって来たに違いない。内蔵助は三名の眼のうちに、その急激な意気を読みとって、

(はて、困ったものだ)

というように、模糊とした態度と面持のまま、暫くだまりこんでいたが、やがて、所在なげに、煙管をとりあげて、かるくたたく。それから、机の端の紙きれを取って、紙子縒に縒っている。

『御家老。――承わればすでに、公儀御使の大目付荒木十左衛門まで、開城のお受けを差出された由でござるが、それは、噂でござろうか、それとも、真実でござろうか』

『もう、お聞きか』

『お城で、吉田忠左衛門殿から』

『ならば、くわしゅう申しあげるまでもない。そのとおりでござる』

端にいた奥田孫太夫の白髪まじりの長い眉が、窪んだ眼のうえでびりっとうごいた。

『大夫』

開き直った声音である。

血相ではどんな大喝が出るかと待っていると、孫太夫の手の甲が、その眼を抑えた。はらはらと落涙しているのである。五十六歳にもなる男が――武士が――泣いているのだった。

内蔵助は蘇鉄の葉へ、ふっと、眼を反らした。大きなおはぐろ蝶が一羽ゆらいでいる。