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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
思いあわせてみると、泉岳寺はすぐそこだし、この月二十四日は、ちょうど殿中刃傷後百ヵ日に当る。
『石屋』
『へい』
びっくりした眼をあげて、石屋は鑿をやすめた。
『その碑――どなた様からの依頼か』
『今井町の浅野式部少輔様の御註文でございますが』
『む……。内匠頭様の御後室、瑤泉院様のいらっしゃるお屋敷だの』
『左様でございます』
『使には、誰が見える』
『御用人様で』
『ほかには』
『御浪人なすった堀部様や、奥田様、そのほかのお方も、時々、お立ち寄りなさいます』
『そうか。皆、元気かな?』
『旦那様は』
『拙者も、実は赤穂の者だが、江戸に身寄りがおるので、国元からやって来たのだ。江戸に足を入れるとすぐ、御主君の石碑にお会い申しあげるのも尽せぬ縁かと、思わず涙を催してしまったわけじゃ』
『そうですか、旦那方も、赤穂のお方ですか――』
と、石屋は遂に打ち解けた言葉づかいで、
『そこじゃあ暑うござんす。こっちへお入いんなすって、麦湯でも召上っておくんなさい』
『かまうな、仕事の邪魔になろう』
『なあに、旦那方の御苦労を思やあ、あっしらあ、暢気すぎて、勿体ねえ位なもんでさ。おい、勝公』
『へい』