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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『薄荷糖の菓子があったろう。婆さんに云って、茶を入れて来いと云ってくんな。旦那、そこにある井戸水あ冷とうがすぜ、お肌でも拭いておくんなさい。汝たちも、一服しろ』
『では、涼ませて貰おうか』
縁先の葭簀棚の下に、腰をかけて、清水一学と木村丈八は、赤穂の士になりすましていた。
石屋職人の辰蔵は、江戸者の気質をまる出しに持っている。二人の床几の前に、自分も煙草休みの腰をすえて、
『ご苦労でござんすね、赤穂からこの炎天に長道中じゃあ堪らねえ。あちらの噂もずいぶん伺っておりやすが、大石様というお方は、城明渡しのお使者に、見事な扱いをなすって、赤穂武士の肚のあるところをお見せなすったそうでございますな』
『江戸でも、そう申しておるか』
『正直なとこ、中にゃあ、悪口を云ってる奴もありやすがね。――なあ勝公、銭湯で汝が聞いて来たっていうじゃねえか。何て云ったけな、あの狂歌は』
職人たちは憚って答えなかったが、石辰は首をひねって、
『そうそう。――大石と足を踏まえて受取れば、思いのほかな飛んだ軽石――と云うんでさ。……だが、あっしゃあ、そう思わねえ。幕府の使者を相手に戦をしたって何になる。