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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
田舎漢は、度し難いと見た。だが、それほど愚鈍とも見えない内匠頭と思うと、或は、知っていながら、慇懃と口先だけ、出すべき実質の物を出さないで済ませようとする狡い手ぐちかもしれないと邪推した。然し、どッちにしても、口には出して云えない事だ。態度に為て見せて、気が着くようにするより外はない。
で、冷やかに、
『お許が、内匠頭殿でお在すか。なる程お若いな。この度は、めでたい事だ。遣り退けたら、一国一城の主として、いちだんと、箔がつこうと云うもの。まあ、大事に勤めてみられい』
意地悪そうな眼皺に、薄笑いをたたえて云った。
内匠頭は、何か、第一印象からして、まずいものを感じた。親しめない老人である。然し、他家へ行って膝を屈するような事を滅多にしない大名育ちの自分の気儘は出すべきでないと、反省もした。
『身に過ぎた大命を仰せ付けられましたものの、未熟な私、何分共、後輩と思召して、御指図のほど、願わしゅう存じます』
『御謙遜じゃ。それがしなど、年のせいか、近頃は、うるさい故事有職などは、とんと、忘れがちで困る。……ならば、こちらから、音物を携えて、教えてもらいたいくらいだ。