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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『偶然、そういう日が、重なったのでございましょう。何も、鶴のせいでは……』
家老の左右田孫兵衛が、わざと、笑い消すと、
『いや!』
と、左兵衛佐は、かぶりを振って、
『生物は、元来、父上もお嫌いなのじゃ。これを貰うたときから、欣んでは居られなかった。殊に事変以来は、鶴どころじゃない。こんなもの、見るのも憂い気がする。夜など、時々大きな羽搏きをして驚かしておる』
『左様なれば、鶴だけ、ここへ残しておいて、何処様か、御親戚のうちへでも、お贈りなされては何うですか』
『こんなもの贈られたら、またその屋敷に、不祥事が起るぞよ。射てしまうがいい』
『おまかせ下さい。何とか、お気に障らぬようわれわれで計らいまする』
孫兵衛になだめられて、
『こんどの屋敷では飼わんぞ』
と、左兵衛佐は、書院へ上った。
懸軸も、花瓶も、書架も、すべての調度は取片づけられて、そこもがらんとしていた。左兵衛佐は、まだ木口の新しい長押や天井を見上げて、父の上野介が、これを建築する時の種々な凝り方だの、普請の予算が不足しては、上杉家から、五千両、一万両と、大口に金を借りるたびに、母が辛い立場にあった事などを思い出して、憮然としていた。