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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『――何うしてもそちは上杉家へ戻ると云うのか、わしをさし措いて』

『帰らせて戴きます』

『六十歳にもなった夫婦が、みっともないと、思わぬか』

『みぐるしい事は存じて居ります。……けれど、それ以上、耐えられないものがございますから』

『何が』

『もう、申し上げても、無駄でございます。あなた様に、御諫言はいたしません。お側にいる以上は、つい、言葉の端にも出ます故、今日かぎり、私は、里方へ参りまする』

『行けっ』

云い放って――

『上杉家の血をひく奴は、どれもこれも、よくよく薄情に出来ておるとみえる。千坂兵部と云い、其方と云い……』

『兵部は、家臣でございまする』

『あの男が、米沢侍の冷たい特質を、よう現わしているのじゃ。嘘か、見い! 米沢侯は、さすがに骨肉、赤穂の浪人共に、不穏な謀みがあると聞けば、すぐこの身を思うて、白金の下屋敷へお匿い申そうとか、米沢の本城へお越しあれとか、遙々、遠い国許から心を寄せて案じてくれるのに引換えて、その主君のことばを、いちいちヘシ折って、お匿いも相成らぬ、米沢へお引取も以ての外と、事毎に、わしを危地へ曝すようにと、仕向けているのは、あの千坂兵部ではないか』