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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『上方組との打合せはよいが、一体、いつ迄、このような同じ文句の遣取りを交しているのだ。内蔵助殿の手紙といえば、毎度決まって、公儀の御憐憫にお縋り申し奉る事だ。大学様お取立を第一義に考えている事だ。又、時期尚早だ。軽挙妄動を慎めとある事だ』
『うむ』
と、安兵衛が顎を引く。
側の村松三太夫が、
『一つ』
と、その手へ杯を持たせた。
郡兵衛も杯を取って、
『今日の書状を見れば、又しても、大学様お取立の運動のために、遠林寺の祐海とやらが、柳沢家に伝手を求めているとか、大奥の縁引へ奔走しているとか、その結果を見た上でとか何とか、まるで女人の為るような陋劣な策に大事を恃んでいるのじゃないか。優柔不断も甚しい。大石殿の心事はこれで見え透いていると云ってもよい。既に、大事を共にする人物じゃないと俺は思う……』
背を屈めて、蒲焼の串を解していた奥田孫太夫が、
『江戸と上方、手紙では埓があかん。いちど誰ぞ遣されればよいにな』
『原惣右衛門殿が、近々に下向なさるとこの前の書面にあったが』
と、片岡源五右衛門が云う。
郡兵衛は、嘲殺するように、
『それも、泣く子に飴を舐らすように、われわれを鎮撫に来るというのだ。