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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『べら棒め、泥鰌の代を貰いに行って、まさか、生命を奪られる奴があるもんか。その若殿だか何だか知らねえが、汝に弓を向けた侍ってのは、おおかた、気狂いか何かだろう』
『どうして、人品のいい、立派な若様さ。顔の面長なところが、どこか上野介に似ていた』
『忌々しいな、吝ったれ屋敷め』
『まあ、いいや、くれたと思えば』
『主人の物だと思って大風に云うな』
『その代りに、台所足軽の花木さんから、口どめされた事を喋べりちらしてやるからようがす』
『なんだ、口止めされたというなあ』
『何ネ、例の一件があるんで、大殿様や若殿が、本所へ移る日を、ばかに、世に秘し隠しにしているんで』
『ふム、成程』
『ほかの出入商人には、まだ、四、五日こっちにいるように云っているが、ほんとは、今日限りであの屋敷の者はすっかりいなくなるんですぜ』
『馬鹿め、そんな事をいくら喋べり歩いたって、何んの腹癒せにもなりやしねえじゃねえか。泥鰌のほうは、はっきり損しちまわあ。誰か、頭を下げて、取って来い、取って来い』
源蔵の眼と、貞四郎の眼とは、梯子段の途中と下で凝と結びついていた。女中の来る気勢がしたので、二人は、無言のまま、二階へ戻って行った。