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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

相手が船で行くことは、予期しない事だった。

『先へ廻ろう』

これは、赤埴源蔵の言葉だった。

『松坂町か』

『船から上るとすれば、二つ目橋の辺り』

『よしっ』

と、気は逸っている。

『だが待て』

これは、奥田老人の注意である。

『うかとも、先廻りは出来んぞ。松坂町ばかりが、上野介の行く先とは限らん――上杉家の中屋敷、下屋敷という策もある』

『大きに』

村松三太夫がうなずく。

『然らば』

と、郡兵衛が、

『船を尾行て、河岸を歩もう』

『それも、人目につく』

『いや、ちりぢりに』

『至極』

と、異議はなかった。

すぐ、河岸を追った。一人――二人――三名ぐらいずつに別れて。

所が、そうして四、五町ほど歩くと、忽然と、自分たちの前に、これは堂々と団結して、吉良上野介の船に尾いて陸を歩行してゆく一群の人影が現れた。十一名の人数である。足拵えは、草鞋股立、大刀に反を打たせて、中の二、三名は、槍を横に抱えている。

『やっ?』

『何者だろう?』

安兵衛も、郡兵衛も、いぶかった。

味方である筈はない。――

又、吉良家の家臣にしてはおかしい扮装でもある。草鞋、負包み、埃っぽい野袴など、どう眺めても、田舎武者だ。