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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『高田、思いとまろうよ』
と、宥めるのであった。
『なぜ、貴公までがここへ来て、二の足を踏むのか』
郡兵衛は、憤然となじって、
『赤埴、片岡、各※(二の字点、1-2-22)は』
『御老人に従おう』
と、殆どが、思い返して、もう帰りかけるのだった。郡兵衛は、戻ってゆく同志の背を、蔑むような眼で睨めつけていた。
『堀部、帰るのか』
『やむを得ん』
『貴公と、奥田老人には、ちょっと、待ってもらおう』
二人の袂をとらえて、
『話がある』
『なんだ』
『すくなくも、われわれ三名だけは、ここを去ってはすむまい』
『どうして』
『約束がちがうじゃないか。おれ達は、当初に何と誓いを立てたかっ。――他の者達が、この瀬戸際に意気を欠いたのは、是非もない。だが、われわれ三名だけは、たとえ最後の一人になっても、吉良が、鉄壁の固めをしようと、斬り入ろうと、誓った筈ではないかっ。忘れたのか、もうその言葉を』
安兵衛と、老人の腕くびを、両方の手に固く握って、揺り動しつつ郡兵衛は云うのだった。情熱から湧く怒りが、瞼に、涙さえ光らせている。さすがに、安兵衛も老人も、心を揺ぶられる心地がした。その情熱は尊いものだと思った。