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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

自分にだって負けない程なものはある。然し、この男の剥き出しな一徹は、より美しいものだと思う――。

『高田。……まあ落着け、そう怒るな。決して、われわれが、今夜のこの期に臨んで、怯んだわけじゃない』

『いや、臆したと云われても、弁解の余地はあるまい。昼間の言葉をもう……』

『まあ聞け。――貴様、死ぬことばかり急いでいるが、上野介の首級を貰わずに、笑って死ねるか』

『俺には、自信がある。清水一学の腕も、およそは計っているつもりだ』

『一学が、敵か』

『――で無いにしても』

『今夜、一気に、かかりたいのは、拙者でも、御老人でも、変りはない。しかしああ敵が備えていては、どう衝いて出ても、勝目は見えない。少し、兵法というものを知っている者なら、すぐ感じることだ。付人や、家来は、幾人でも斃せようが、上野介が、討てるか否かとなると、拙者にも、誰にも、勝算は見えないのがほんとだ。――第一、地の理を見ても、吉良の邸に近いし、この河岸筋には小番所があり、人家も多い。一声喚けば、雑人がわっと殖える。おそらく、飛道具を用いても、難かしかろう。為損じたら、あれ程、諄々と書状を以て、われわれに苦言をよこしている大石殿を初め、国許組に、笑いをうけるばかりか、大石殿の云っている通り、天下の笑われもの、君家へも汚辱のうわぬり……。