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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

翌々日、鶴ヶ岡八幡へ参拝した。

奥田孫太夫は、自分で紙を継いで表具したという一巻を懐中して来た。

約束である。神前で、三名は、自署したうえ、血判をした。

『高田』

『ウム……?』

大銀杏の前を降りながら、安兵衛がたずねた。

『疲れたのか……。顔いろが、少しわるいが』

『水あたりかも知れん』

『それはいかん』

印籠を割って、薬を掌にこぼし、

『これを、服んでおくといい』

郡兵衛は、掌へうけたが、服むふりをして、薬はこぼしてしまった。江ノ島へ廻る予定である。然しそれも郡兵衛は気がすすまないらしく見える。

『帰ろうじゃないか』

と、茶店で云い出した。

『折角、ここまで来た道ついでを』

と、奥田老人は云う。そう云われれば又、引きずられてゆく郡兵衛であった。

島を巡って、鮑とりの海女を見ていたのである。――と貝細工を売っている土産物屋の軒先から、じっと、三名の背をながめている若党連れの武家の父娘があった。

『はてのう』

『よう似ておりまする』

特に郡兵衛へ注意を向けているのである。やがて、三名が、浪飛沫の巌頭から足をめぐらして、土産物屋の前を通りかかると、先刻から眸を放たずにいた武家とその娘が、