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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
ちょうど今日は月の十四日なので、亡君の墓参を済まし、かねて、国表の始末やら、藩士離散の折の御手当のお礼やらを述べた上、独り遣り場もない惨心のうちに、切髪の初冬をどんなに寒く傷ましくお生活であろうかと、その慰問も永らく胸にだけ思っていたので、今日は――と、その宿志を果すために、泉岳寺からその足でここへ訪れて来たのであった。
『何から云おうぞ……』
瑤泉院は、脣をわななかせた、さすがに女性である。内蔵助の姿を見ただけで、涙が怺えきれなかった。
『ゆるしてたも』
暫く、泣いて居られるのだった。内蔵助も、顔を上げ得なかった。森閑として、二人の主従は、涙の中に自分をまかせていた。無言のうちに、言葉にも尽せない感慨を語り尽しているのだった。
やがて――
『内蔵助、寒かろう』
『はい』
『もそっと、火鉢のそばへ、寄られたがよい』
『では、御意にあまえまして』
『そなたは、この夏の初め、病ろうていると風の便りに聞いたが、もうよいのか』
『軽微な腫物をわずろうたに過ぎませぬ。お案じ下されますな、この通りに、ただ今では頑健でござりまする。それよりは、御後室様のお心、おからだ、離藩の家来共も、よそながらお案じ申しあげております。