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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

殿の在した頃と違うて、日常、お伺いもかないませず、また、人間はいつの御対顔がいつの別れとも限りませぬ。どうぞお自ら御大切に遊ばしますよう』

『欣しゅう思います。したが、内蔵助……』

『はい』

『人と生れたら、男と生れたいものじゃ。そればかりを、沁々と思います』

『…………』

『男なればと思うことが、朝に夕べに、心から去りませぬ。さむらい達の道もくるしかろうが』

『わかりまする、内蔵助には、お心のそこまでを、御推量申しあげることができまする』

『そなたを、ただ、力に恃んでおりますぞ。国表の事ども、噂を聞くにつけ、よう為てたもったと、遠く、掌をあわせておりました』

『勿体ない』

『いいえ、それは、この身から云うことじゃ。主従の縁も、はや薄らいで、散々に、行方も知らぬ人すらあるに――いやそうした事が世の常なのに――。内蔵助、そなたとは、まだ、主従と思うて居りますぞ』

『おことば、辱のうござります、御奉公も、まだ、済んだとはぞんじませぬ。ふつつか者でござりますが、内蔵助もまた、あの世まで、内匠頭様の御家来で通る所存でござります』

『それ聞いて、この身も、生きがいを覚える。亡きわが良人にもさぞお欣びでありましょう』