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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

同じ役目を持って来ている者は、大阪、伏見、洛中洛外、奈良あたりまで亙って、およそ二十二、三名は上洛っている。それ以外は何も知らん』

『よく云った、放してやろう』

腕頸の下緒を解いて突き放した。作兵衛は、残念そうに、屹と、白い眼を後に向けたが、そのまま闇の中へ姿を晦ました。

毘沙門前へと、石段を下りながらも、二人は、手に入れた木村丈八の紙片を、もういちど出して読みかわしていた。あれほど、内蔵助が緻密に身辺を偽装い、同志の工作に霧を張っていてもこうである。まして、堀部、奥田、原、大高などの面々が急激に事を起そうとしたとて成功する筈はない。却って、上野介の身に急迫を感じさせて、米沢城の奥深くでも追いこんでしまうのが落ちではないか。――沁々そう感じながら、又之丞が、

『幸右衛門』

と、呼んだ。

『なんだ?』

『遽に、俺は、道中先の大夫のおん身が案じられて来た。十八尺という男、何者か知らんが、万一、船中でも、内蔵助殿にどんな害を加えまいものでもない』

『俺も、黙っていたが、先刻からしきりと胸騒ぎがする、虫の知らせのような気がしないでもない。まして、今訊けば、この上方だけでも、二十名以上の密偵が入りこんでいるとすれば、奴等が、逆に此方の先手を打たないとも限らぬからな』