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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『これこれ、若いの、そう不粋なことを云うものではない。……そこらには、わしが贔屓の竹之丞もいる、また、曾根崎のお艶もいる、ここまで、一座を連れて来て、なんで遽に帰れようぞ。今宵は、何は措いても、升屋まで行かねばならぬ』
『升屋が、それほど、お大事か』
『遊びにも、見得もあり、義理もある。山科の浮大尽ともいわれて見れば……』
『ちッ!』
と、唯七は、唇を歯でかみしめて、
『浮大尽とは、誰の事。――大石殿には、廓の義理が大事か、われ等との固い誓いが大事か』
『これ』
と、大きく唯七へ眼を向けて、
『何を云うぞ。固い誓いは、夕霧にしたことじゃ。こんどの旅の戻りには、かならず、訪れようぞ、赤穂土産も見せようぞと、飛脚を出しておいたのが、いま思えば、不覚不覚。みんな、その土産も曾根崎でとられてしもうた。――せめて、顔だけでも、見せてやらずばなるまい』
『よいほどに、仰しゃりませ! 左様なたわ言を、よく吾々に申されたものだ』
『遊びの味というものは、常々、じめじめと心のうちに隠している腸をかくの通り、誰様にも割って見せるおもしろさにある。そう不粋を云わずに、どうじゃ唯七、わしと共に、これから、撞木町へ参ろうず』