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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『お断り申す! われ等三名は、たった今、亡友萱野三平の墓参をいたして来たばかりの体、彼の死を思えば涙がこぼれる。かような有様では三平も、あの世で、犬死したと悔んでいましょう』

『三平が……その三平が死んだとはいかがいたして?』

『酒くさいあなた様に、しかも、路傍の立ち話などに、云えた事ではござらぬが、一言お耳に入れる。不愍や、純情一徹の萱野は、同志の盟約と、老いたる親との間に立ち挾まって、割腹して相果てました』

『…………』

朧な夜の雲を見ているのか、桜花の梢を見つめているのか、内蔵助は、背を樹にもたせかけ、顔を仰向けたまま、いつまでも、眸を下に落さない。

――露のよすがの

うきつとめ

こぼれて袖に

辛きよすがの憂きつとめ

こう又、手拍子で口誦さむと――

『若い生命さえ、そのとおりみじかい人の世、又之丞も、唯七も、幸右衛門も、すこしは、知らぬ世界を見ておいたがよかろうぞ。――さ、来ぬか、内蔵助が、こよいは遊蕩の手ほどきいたそう、万事は、そのうえで。いや、杯の底まで深く夜を更かして……』

蹌踉と先へあゆみ出しながら、竹之丞とお艶の影へ、扇子でさしまねいた。

京伏見廓細見