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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『お陸っ――』
と、掌を鳴らした。
『はい』
と、その返事が遠く聞え、やがて、妻のすがたが、小走りに来て、手をつかえた。
『オ。……お眼ざめになりましたか』
『何をして居るか』
『つい、勝手元の用事に紛れて……。お宥しくださいませ』
『台所が手不足なれば、いくらでも、下婢下男を雇えと申してあるのに、はて……貧乏癖の抜けぬ奴じゃ。……水を持って来い』
『はい』
遊里から戻って来ると、その後は、必ず不機嫌で怒り易いこの頃の良人であった。
お陸が、腫れ物へさわるように注いで出す水を、一息に飲み干して、
『あの気合は、主税と吉千代だの』
『左様でございまする』
『――あの声で眼が醒めたのじゃ。うるさい奴、父が、くだらぬ励みは成らんと申したと云って、止めさせて来い』
『…………』
『何を恨めしそうに、わしの顔を見ているか』
『お言葉ではございますが、吉千代も、あのように木剣を持つようになり、主税も兄らしゅう、暇を見ては、指南してやっておりまする。……褒めておやり遊ばしてよいのに、くだらぬ励みは成らんなどと、どうして、親の口から申されましょう』
『お陸』
と、鋭く云って、内蔵助は膝をあらためた。