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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『又、祇園か、撞木町へでも』
『さ? ……』
主税は、間がわるそうにして、そして、いちど拭いた眼には、抑えきれないもののように、また滂沱として涙があふれかけていた。
『――どう召された』
惣右衛門が肩を打ったとたんに、睫毛を割って白い珠が頬を下った。
『…………』
黙然と主税が答えずにいると、それ迄、網代笠を被っていた誰ともわからぬ雲水が、横から挨拶した。
『御両所とも、お変りもなく、祝着に存じまする』
『や、貴僧は』
『赤穂表の遠林寺の祐海にござります』
『オオ、和尚か』
『大石様のお旨をうけ、江戸表へまいりまして、御舎弟大学様のお取り立てについて、いろいろと、手づるを求め、奔走いたしましたなれど、微力、如何とも望みを達せず、実は不首尾な御返事を持って、ただ今、お立ち寄り申したところでござります』
『それを聞いて、主税どのは、失望のあまり落涙して居られたのか』
『いいえ……ちと他に』
『他にとは、何か大事でも?』
『家庭の些事、おかまい下されますな』
『家庭の事といえば、なお聞きずてにならぬ。われ等は、大石殿とは、切っても切れぬ間がら、お聞かせ下さい』
『拙僧から申しましょう……』