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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

見目のよいのが

縁づきばかりか

見目の悪いが

やもめでいるよ

親の代から髪のないわれに

野老食たとて髪が生よか

聟殿

やれ、髪が生よか

米磨ぎ笊を被った酔いどれは、歌にあわせて道化た踊りを舞っていた。よほど粋も遊蕩も為つくした者とみえ、戯れ半分のうちにも、垢抜け手振りが時々見える。

親の代から

ひしゃげた鼻に

天狗食うたとて高うなるか

聟殿

親の代から短い羽織

医者を食うたとて

長うなろか

聟殿

やれ長うなろか

そこは伏見で一流の茶屋、笹屋喜右衛門の広間だった。ここばかりではない。階上階下の満楼に、伊達と豪奢の灯は競っていた。

と――誰やら案内なしに、笹屋の庭先を肩そびやかして大股に歩き廻っていた者がある。武骨な二人の侍だ。彼っ方此っ方の部屋を庭から覗き廻っていたが、ふと、米磨ぎ笊の踊り手を見つけると、

『数右衛門! 彼れだ』

と、一人が後の者へ向って、指さしながら云う。

原惣右衛門と、数右衛門とであった。先頃、大阪から出て来て、頻りと山科を訪い、祇園をたずね、同志の家を訊きあるいたりしていたが、一向、その同志からも要領を得ずに、ここ半月ほど、業を煮やして、内蔵助の居所を突きとめに歩いていたその二人なのである。