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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『おやめなされっ!』
数右衛門は、持ち前の大声をあげ、いきなり縁へ跳び上って呶鳴った。
『――馬鹿馬鹿しいっ、粋狂にも程がある、何たる態だっ。妓ども、ひかえろっ』
その間に、惣右衛門は、驚きの眼を瞠っている仲居や妓たちの間を、ずかずかと通って、ぽかんと、擂粉木を手に立っている米磨ぎ笊の顔のそばへ、自分の顔を突きつけた。
『大夫。――惣右衛門でござる』
『…………』
『いつの間に、かような芸道にまでお通じなされましたぞ。見事といおうか、何と称えようか。さだめし、世評もお耳に入っているであろうに。……はははははは……余りといえばお変りになった』
皮肉な口を叩きながら、その惣右衛門の顔には、涙がながれていた。不破数右衛門は、見つけたら俺は撲ってしまうと云って、ここへ来たのであるが、その人の前へ出れば、やはりそうも行かない様子だった。然し、心の裡の憤りは、その顔つきを青じろく硬ばらしているし、昂っている肩先は顫えを抑えているのだった。一つまちがえば、いかに目上の内蔵助であろうと、理性を失って、撲りかねまい血相なのである。
『大夫っ……』
と、惣右衛門と共に、詰め寄って、