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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『まあ、いつにない、おひがみを』

『淀屋が何じゃ……浮橋、皆を呼べ、黄金を撒いてやろうぞ、奥の座敷に、負けぬ黄金を』

『あれっ』

眼をみはる間に、内蔵助は、しどけなく襟のくずれた懐中から、金入をずり出して、

『それっ』

小判、小つぶ、白銀、黄金、ぱらぱらっと、燈火の届くかぎりへ撒きちらした。

女の手や、男の手が、わっとそれを争うのだった。内蔵助は、発狂したように、手を拍って笑った。ひどく笑い出すと、この頃のお大尽は、手を拍っただけではやまない。酒杯を仰飲ってやたらにそこらの人間へ酌す。受け渋ったら大変なことを皆よく知っていた。忽ち、その間に、ひょろひょろと立ち上っている浮大尽の姿を見出すのだ。ひどく不器用な手振りでいながら、仕舞の心得があるとみえて、自ら足の踏みようは確かだと老妓が感心したことがある。見よう見真似の道念踊りが、いつか、お大尽の十八番と云われていた。

『さあ、浮いたり浮いたり』

辻咄の徳西がつづいて起つと、

『浮きました、浮きました』

と、竹之丞も、又起った。

それに従いて、ぞろぞろと、

『浮大尽は、どこじゃいな』

『ハア、浮大尽、そこじゃげな』