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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
ともかく、まだ遠くは行っておらぬ筈。手分けして』
『よし、俺は、この方角へ』
もう、助右は、駈けだしている。
源吾も、三太夫も、分れ分れに、先へ行ったという原惣右衛門と数右衛門の二人を追いかけて行った。
笹屋の仲居は、そこへも又、駈けて来て告げた。
『しげ様ではございませぬか』
『おお、なんじゃ』
『お大尽さまが、お目ざめで、皆の姿が見えぬが、何うしたことぞと、きつい御不興、はやくお越しくださいませ』
『何。うき様が、お目醒めとか。はて、せわしない』
笹屋に戻ると、以前の広間に、内蔵助のうき大尽は、敵娼の浮橋の膝に体を凭せかけ、辻咄の徳西だの、瀬川竹之丞だの、幇間末社にかこまれて、
『お汝ら、これがさびしゅうないか。わしは、さびしい……よそばかりが、賑わしゅうて』
と、今眼が覚めたらしいばかりなのに、もう、杯を手にしている。
『何ぞ、夢でも御覧じなされましたかいの。これほど、賑やかに、騒いでおりますのに』
『奥の躑躅の間で、さんざめいている一座は誰じゃ』
『あれは、淀屋のお客衆でございましょう』
『淀屋とか。うむ、三都に聞えた富豪じゃの。さてこそ、うき大尽も、淀辰の金の光の前には見下げ果てられたか』