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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『御苦労でござった』
内蔵助は、弟子に礼をのべて、静かに、杯を含んでいた――彼が、進藤家へ預けにやった長持の中には、自分の死後、諸方へ頒つ遺物が、それぞれ一品一品、紙片に贈り先の姓名を誌して一ぱい入れてあるのだった。
もう晩かったが、玄渓の家を出ると、涼しさに、夏の月夜を足はそぞろになって、微酔を蚊帳につつむのが惜まれた。
『わしは、一文字屋に立ち寄ってゆくが、貴公も、茶でも馳走になってゆかぬか』
二条の辻で、ふと、内蔵助が云う。源吾は、つかれていたので、明日を約して別れた。――振向くと、内蔵助は、風の中で飄々と、寺町の通りへ曲がっている。
『いるか』
『おう、これは』
一文字屋の人々は、思いがけない時刻に思いがけない人が訪れて来たのに眼をみはり、家中して、彼を奥の涼やかな一間へ迎え入れた。
ここはお軽の兄の家だった。山科の屋敷や家財一切を引き払うと同時に、お軽も家へ帰されていた。
(めずらしいお微行――)
と、一文字屋の家族たちは、わざと席を外していたが、やがて、奥のお軽の部屋から、内蔵助の所望とみえ、彼女のたしなむ琴の音が洩れて――
燈暗うして
数行虞氏の涙