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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
呼びとめられたのは、今、暖簾の外を、小走りに通りかけた十八ぐらいな小間使で、すぐ先の、松坂町の吉良家の召使であった。
お粂は、呼ばれることを、実は心で待っていたように、すこし顔を紅らめて、暖簾の蔭から、
『善兵衛さん、なアに?』
『何処へ行らっしったんです、お澄ましで』
『実家まで』
『お実家へ。へへへ、おっ母さんのお乳をたんと吸って来ましたね』
『そうじゃない、お父っさんが、すこし加減がわるかったからですよ』
『何はともあれ、わたくしの店先をお通りになって、横を向いて、素気なくお通りになるなんて、善兵衛、お恨みいたしますぜ』
『あら、横なんか向いて通りはしないじゃないの』
『ああわかりましたよ』
『なあに』
『きょうは、私一人だけしか、店に見えなかったからでござんしょう。――従弟の右衛門七が見えないから』
『まあ、善兵衛さんたら、ほんとに、邪推ぶかい』
『困るんでさ、まったく、私ときたら、男のくせに嫉もちやきでね。……まあ、お寄んなさいな。寄らなければいい。こんど、お友達のお鈴さん、小枝さん、みな様がお買い物にみえたら、たんとお喋舌りをいたしますよ』
『なにを。何を』