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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『――右衛門七との事をね』

『ま! わたし、何にも右衛門七さんとなんか、してやしないじゃないの。――憎らしい』

と、袂を肩へ上げて、打つ真似をしながら、お粂ははいってきた。

『ハハハ、冗戯ですよ。冗戯冗戯』

小座蒲団をそこへすすめて、

『おこらないで、まあ、愛想にでも、ちょっとお掛けくださいませ』

『善兵衛さんは、ほんとに、憎らしいような可愛いような人だって、みんな云ってますよ』

『困りましたな、どっちかにして下さいな』

『私は憎い方』

『どうせ、あなた様はね、右衛門七でなければいけないんですからな』

『また仰しゃる』

『おっと、お茶がこぼれます。まあ、一服召しあがって』

『だから、憎いんですよ。――あら、こんど、よい根掛けが来ましたの』

『鼈甲物でも、お見せいたしましょうか』

『飛んでもない、小間使い風情が』

『右衛門七にねだって、買っておもらいなさい。……あいつはね、私どもへ、身寄りなので、手伝い半分、時々、ああして来ていますが、田舎の家がよいので、小遣いには不自由をしない羨ましいやつなんで』

『嫌。そんなこと』

『でも、お粂さん、あなたには、右衛門七のほうで、実のところ、買って上げたがっているんですぜ。