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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
……今日も、二階に来ているんでさ。きっと、お粂さんの声を、しいんと、鳴をひそめて、聞いてやがるにちがいない』
お粂は、そこにある櫛の二つ三つを膝にのせて、聞かない振りをしていながら、襟あしに茜をさしたように血を噪がせていた。
『――ね、いっその事、二階へあがって、お話しなさいな。右衛門七は、きょうはすこし、風邪気だと云って、草双紙なんか読んで退屈しているんですから』
『でも……』
『お屋敷のほうが?』
『いいえ、お屋敷は、夜までお暇をいただいてあるんですけれど――』
『――ならば、よいではございませんか。この先に美味い汁粉屋ができましたね。右衛門七のやつも、先刻、食べたいなどと云っていましたから、交際あっておやんなさいな』
『ほんとに、右衛門七さん、工合がわるいんですか』
『大したこともないんですが』
『じゃあ、ちょっと、お見舞して行こうかしら? ……でも、何だか、右衛門七さん一人のところへゆくのは……』
『ええもう、焦れったいお方だ』
善兵衛は、お粂の白い手頸を取って上にあげた。
雛鳥の籠
猫が、泥竈の下から、矢みたいに、奥へ逃げこんで来たかと思うと、西陽のさしている勝手の障子ががらっと開いて、