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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『やり難いのは、その傍観者の弥次声だ。事あれかしの人情が手伝って、小さい事も大きく云う。有り得ぬ事も、有りそうに云う。うっかりは、それに乗れん』

『とにかく、一刻も早く確めたいのは、吉良家の内部だが』

『さ、それがだ……。いつぞやも、麹町の吉田忠左衛門殿の浪宅に寄って、さし当っての困難が、上野介の在否を知ること、邸内の絵図面を手に入れること、内部の構え、寝所、抜け道の有無、警固の人物と人数などだが――誰もが各※(二の字点、1-2-22)、種々な方面から、心をくだいて、探ってはいるが、前にも云ったような厳重さに、まだ何一つとして、探り得たものはない。――さすがの大石殿も、これには、弱っておられた。無下に、策を為せば、事を破る因になるし……』

『――で、実はの』

善兵衛は、身をかがめて、煙管の首を、二階へ向けた。

『その策を、やりかけているのだが、これがうまくゆけばよいがと、今も気をやきもきしていた所だ』

『二階に、誰か?』

『吉良の小間使で――お粂という、ちょっと愛くるしい小間使がおるだろう』

『む……』

『おかしい事なのだ。あれが、要りもせぬ物をよく店へ買いに来る』