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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
米屋の二階は抜けそうであった。
毎晩の事なのだ。ここに集まるのは、近所の折助だの、駄菓子屋の亭主だの、馬方だの、自身番の番太郎までが入っている。
博奕といっても、大きな勝ち負けのできる階級ではない。それに自身番へ鮨代も届いているので、まるで大びらなのである。今夜もそれが始まっているうちに、この喧嘩だった。
(どうせ空いている二階だから、いくらでも使ってもいいが、喧嘩と火事は御免ですぜ)
との断り附きで、米屋の五兵衛は、てら銭も取らずにここを開放してくれているのみか、稀には、せんべいや蕎麦の振舞までしているほどなのに、その好意に対しても、ここで取っ組みを初めるなぞは、不届き至極だ。そういう者は仲間外れとして追い出してしまえ――と、中での顔役は理窟を云って諭している。
亭主の五兵衛は、裏の籾蔵に入りこんで、いつもは、米を搗いたり、糠を篩っているのであるが、今夜は、無尽講があるとかで、蔵の二階で、宵から明りを燈していた。
『どうしたんです』
五兵衛の顔を見ると、丑も辰も、他の者も、恐縮のていで、もう騒ぎはしずまった形だった。
『なあに、ちょっとした間違いなんで』