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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『岡島』
『おう』
『貴公、いつぞや、日比谷御門とかで、吉良殿のお顔をたしかめたということだが、あれは真』
『む。――一目見た』
『どうして』
『吾々五十余名の同志のうちでも、吉良殿の相貌を見知っている者は、一名もないというではないか』
『ぜひない事だ。高家衆と陪臣とでは』
『それでは、復讐の折、どうかして見遁すまいものでもないし、首を上げるにも、これぞと、見定めがつくまいと考え、実は、長い間心にかけ、吉良家の出入を見張っていたが、よい折もないのだ』
『うむ』
『すると、そうした時でなく、麹町からの戻り道、亡君のおひきあわせだと云う位――偶然にも、上野介の駕籠と行き逢った。供廻りの侍たちには見覚えがある。何か、こう胸が火みたいになって迫ったが、咄嗟に、一策を案じて、駕籠先へ駈け廻り、べたと、土下座したものだ』
『なる程』
『自分の主君の親戚か、別懇な諸侯に途中で行き会えば、こうするのが諸士の礼儀だし、先も、駕籠の引戸を開けて、あいさつするのが作法。おれの姿を見ると、吉良殿も、その通り、駕籠戸を開けて、誰殿の御藩士――と訊ねた』
『ムム、やったな』
『松浦肥前守の家来。――こうおれが答えると、吉良殿がかさねて、御姓名はという。