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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

そう聞くと、一同はよけいに聞きたくなった。こんどは伊助に向い、話せ話せと責めるのだった。

『どうもおれは、ものを包んでいることが出来ない性分だから云ってしまおう。――実は、吉良家の奥仕えをしている女中に、おつやという別嬪が居る。それが、どこで十郎左と親しくなったのか、とにかく、並大抵でない惚れ方なのだ』

『ほ……十郎左に』

『もとよりの事、これだけある首の中でも、どこに他に女の惚れそうな首があろう』

『それは上出来』

と、笑いもせずに賞めたのは、本年六十二歳という村松喜兵衛老人だった。

『十郎左、やれよ』

と云って、この老人、謹直な青年へ向かって、けしかけるように云うのだ。

『女――ああ女か――気がつかなかったぞ。年を老ると、そういうところにぬかりがあるな。女か……ウム何事にかけても女を考慮の外に措くのはそもそもちがっておる。吉田忠左衛門ほどな兵学者も、ここにはまだ気がついておるまいて。……十郎左、それやあいいことだ! やれよ、やれよ、なにを含羞む!』

ガラガラと、階下の入口に懸けてある鳴子が鳴った。――はっと、皆が声をのんで眸を澄ましていると、梯子の下を覗き込んでいた小野寺幸右衛門が、