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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『神崎殿か』

すると下で、

『おお、矢頭と、それがし』

右衛門七をうしろに連れて、小間物屋善兵衛の与五郎が上って来た。

『遅くなって申し訳ない』

『待ちかねたり、案じたりだ。もうすこし見えなかったら、倉橋が見に行こうと云っていたところ』

『――ちと、こよいに迫る仕事があって』

『店にか』

『なんの、吉良のほうに』

『何かあって』

『されば、矢頭、その土産を、御一同へお目にかけてみい』

右衛門七が、燈りの下に出して見せたのは、半分に割れた板絵図だった。

『や……これは吉良家の』

『ウム、やっと手には入れたが、残念なことに、その半分を失ってしまった。しかも、上野介の寝所から奥向きにかけての方がない。長屋門から表の様子はほぼ見ゆるが……』

『どうして、神崎、これを今夜』

『店へよく買物に来る吉良家の小間づかいで、お粂という愛くるしいのがいる。――それが右衛門七に懸想しているので、罪とはおもったが、大義のため、ゆく末は夫婦にしてやると欺いて、奪り出させたのだ』

今夜の結果も併せて話すと、村松喜兵衛老人は、膝を打って、つい蔵の外にまで洩れそうな大声を出して云った。

『なに、これも女か! 女の手に依って奪り出したのか! 残念なことを。