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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

奥の小間使のお粂なのである。

有り合せの干鰯を肴に、家のうちで酒を酌み交していた一学と木村丈八は、そとの声に、杯を措いて聞き耳をてていたが、

『よせばいいに、馬鹿な詮議立て』

呟いて、一学は干鰯を噛んだ。丈八は、冷えたのを飲して、

『なんだ、あれは』

『つまらぬ事だ』

『然し、あんなに泣いて云い訳しているものを、殺しかねないような権まくで責めているではないか』

『先頃、大工小屋から、御邸内を改築した折の板絵図が紛失なったのだ。――誰かそれを盗み出して塀越しに赤穂の者へ投げてやった者がある。――その嫌疑がかかったのだろう』

他人事のようである。一学は、友へ酒を酌ぎ、自分の杯へも、悠ったりと酌いで云う。

『――可哀そうに、あんな小娘が何を知るものか。又、いくら秘密にしようが、これだけの邸地、赤穂にも智者がいる、探ろうと思えば、どんな事をしても探り得ない筈はない。――そういう些事にこだわって、それが金城鉄壁の構えだと心得ている奴ばかりだから心細い』

『清水』

『ウム? ……』

『出て行って、何とか扱ってやったら何うだ。ヒイヒイ泣いているじゃないか。何か手荒な事をしているらしいぞ。