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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

……第一、酒がまずい』

『俺が出ては、ちと口のきき憎い事があるのだが……。口をきいてやろうかな』

『人助けだ』

『どれ』

一学は立って、上り口の部屋の窓から顔を出した。

お粂は、新見弥七郎のために、襟がみをつかまれ、ずるずると、大きな梧桐のしたへ引きずられていた。新見は、その樹の根へ、彼女を縛り附けてしまうつもりらしい。両手を捻じ上げて、

『さ、いくらでも泣け。殿へ申し上げて、後で悠っくり叩いてやる。痛い思いをした上で白状するのも、今のうちに正直に泥を吐いてしまうのも、結句は同じだが、神妙に云わぬからには仕方がない』

『……助けて下さいっ。……誰か来てくださいっ。……おっ母さん! お父さん!』

『ばかっ』

足蹴を一つ与えて、

『誰が来ようと、白状せぬうちは、許す事ではない。ここから、親の名を呼んで、何うする気だ』

『アアッ……堪忍して! ……堪忍して下さいませ』

『では云うかっ。――板絵図を盗んで、持ち出したのはお前だろう』

『そ、それは、存じません』

『お前の親元は、大工の棟梁だというではないか。大工の娘なればこそ、あんな物を盗み出すのに気づいたのだ』

『御無態です……知らないものは……』