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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
武器、装束、一切はすでに安兵衛の浪宅まで密かに船上げしてあるし、こうすべての準備は、何日でもというように出来たが、偖、最後のたった一つの探りだけが何うしても掴めない。
ここ迄に至ると、一党の気持は、いやが上にも焦心らずに居られなかった。かなり落着き込んでいるほうの小野寺十内からして、じっとしていられぬ様子で、毎日頭巾目深にして出て歩いているらしい。若い者などは躍起だった。
その大きな暗礁というのは、
(上野介が、何日、邸に居るか?)
の問題だった。
万が一にでもある。事を挙げてしまってから、
(しまった)
と云うような不覚でもあったら、今日までのあらゆる艱苦と精神は、一挙に泥土にまみれてしまう。
百世までの嗤いぐさとなるばかりではない。旧赤穂藩の名――亡き内匠頭の名までを――悪ざまな市人の口端にかけられなければならない。
それを思うと、この問題は、一歩をふみ出すにも、慄然とさせられてしまう重大事だった。
しかも、他のあらゆる陣形が整ってみると、もう待ちきれないような、堀部、武林、間、勝田、矢頭、磯貝、杉野などの若手組は、
『居ると申すぞ』
ややともすれば、些細な町の風聞や、門扉の出入ぐらいを見届けて、堰を切って、どっと動きそうな気振りを見せる。