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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『……オオ、そうそう、今朝でした。今、茶を注ぎながら思い出したのだが、ここの家主、中島五郎作が見えましてな』

何事を話し出すのかと思えば、つまらぬ世間の雑事らしい。安兵衛は茶碗を取って、

『五郎作。……いつか内蔵助殿からも、ちらと承わったあの人物で』

『そうです。その五郎作が、やはり富豪根性でしょうな、誇らしげに云うのです。近いうちに、吉良上野介の茶会に招かれて参るのだと申して』

『えっ……』

安兵衛は、はっとして、自分をたしなめながら、

『吉良殿は、それ程、茶道に熱心なのでござるか』

『そうらしい。よく、催されまするな』

『ほ……』

又しても、彼はつい、胸から衝いて来る息を、大きく吐いた。

『その五郎作とやらは、吉良殿へ、よほど入懇と見えますな』

『いや、そうじゃないのです。五郎作の茶道の師匠に、四方庵と申して、山田宗という宗匠がある、御老中小笠原佐渡守のお抱えで。――上野介殿も、その四方庵の門について茶を学ばれたのです。で……五郎作が招かれたのは、四方庵の同伴として呼ばれたのでしょう。でも、よほど誉れと思っているらしく、ひどく欣んで居りました』

『はははは。やはり高家といえば、五郎作ほどの富者でも、招ばれる事を、それ程に思うのでござろうか』