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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『ご挨拶申して参りたいが』
と、主の居間を訊ねていた。
『まことに年老ったせいか、意気地が無うなったと申しながら、中座いたし、そこの部屋にやすんで居りまする』
老妻の指さす一間を、早水藤左衛門はそっと開けて覗いた。蒲団をかけた炬燵がある、そこへ脚を入れて弥兵衛老人は横になっているのだった。亭主役として、すこし今夜は元気に酒をまいった様子であったが、まるで若者のような大きな鼾声を掻いて熟睡しているではないか。
『ウム――、お支度のよいことだ』
と藤左衛門は、この古武士のような剛愎の老人をながめて感嘆の声を洩らした。背後に佇んだ菅谷半之丞をそっと顧みても、また云った。
『俺などから見ると、やはり、年齢だけの相違はあるものだなあ』
矢の倉立ち
もう子刻は過ぎている。
大勢の客が去った後の台所に、暫く寒い瀬戸物の音が忙しかったが、そこも片づくと、急に家のうちはしんとなって、雪に埋もれた深夜の棟や梁が、時折ミリッと裂けるような音を走らせた。
あわただしく入って来て、
『叔父上は』
と、甥の佐藤条右衛門と堀部九十郎の二人が、突っ立った儘、家のうちを見まわした。
二階から静かに降りて来たお幸が、ちょっと眼を瞠って、