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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

内蔵助が手許に保管しておいた公金の額は、六百五十一両と少しだった。ほかに瑤泉院の御化粧料を貸付けた金銀の利がおよそ九十両ほど。

もし、内匠頭の舎弟の大学頭の家名再興の事がかなった時には、それは浅野家再興の第一の入庫金となるものであったが、内蔵助の苦衷は酬われなかった。――そしてその金は、彼の好まないほうへ今まで費やされて来たのである。

日にすれば――赤穂退散以来の六百五十余日――その間の浪人たちの生活費や、復讐の軍費として使われて、結局、七両なにがしの不足が最後の数字になって残っていた。

若い連中は、金などは一切あずかり知らない。ずいぶん不自由や貧乏はして来たものの、要するに、内蔵助や老人連の内ぶところの苦労は知らない金を費って来たのである。

今も――その金の話なので、わざと、そこから遠ざかっていたが、

『どうだ、余り一度にここを出ても、自身番などで怪しまれはせぬか』

早水藤左衛門が云い出すと、

『そうだ、ぼつぼつ、散らかって出かけてもよいな』

内蔵助に計って、若い人々は順々に出て行った。

早水藤左衛門は、先刻から、主の弥兵衛老人が見えないが何うしたのかと思って、階下へ降りると、安兵衛の妻のお幸へ向って、