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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

わすれめや

百にあまれる年を経て

つかえし世々の

君がなさけを

橋を越えた先の群れは、河岸に添って、月と雪の光りの中を、まるで鴉のように突き進んでいた。もうここまで来ると、制しきれない血ぶるいが、五体を躍らすだけでは足らなくて、口から何かの声となって衝き出るのを何うしようもなかった。

木村岡右衛門は、頭巾の裡に縫いこめてある自作の詩を、白い息して口誦さんでいた。

身ヲ浮雲ニ寄ス滄海ノ東

久シク恩義ヲ愆ツ世塵ノ中

花ヲ看ツ月ニ対シ窮マリ無キノ恨

散ジテ暁天草木ノ風

そうだ、もう夜半ではない。五更といえば明け方である。今橋の上で聞いた七刻が辻集合の合図だった。

その松坂町の辻には、もう杉野十平次の徳右衛門町組の一手と、前原伊助の相生町組の一手とが、一団になって黒々と立っていた。

『――叱いっ』

吉田忠左衛門が、血気な足なみへこう手を振った。すぐ眼の前に吉良家の囲いを仰ぐと、さすがに毛穴が緊まって、誰の脚も、ひたと道に凍りついた。

『…………』

錣頭巾の眉庇の陰に、忠左衛門の眼はいつもの彼とは人の違うような鋭い眼になって、総て、ここに合体した総勢の頭数を忽ちのうちに読んでいた。