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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

心をゆるした友達と、酔後の手枕は元より悪かろう筈はない。その友達が、今夜に限ってしんみりと話したがるのである。――ただ恨むらくは酒がない。もう少し酒があればと、酒呑みの意地汚なさで、つい思う。

すると、窓の下を、誰かゴトリゴトリと重い跫音を雪の中に運んで行く者がある。

(そうだ)

丈八が思いついて、起ち上ろうとすると、やはり同じ思いだった一学が、もう先に窓へ寄って、雪の戸を開けていた。

『おいっ、中間、中間』

毎夜、半刻交代で、夜どおし邸内を見廻っている二人組の中間と思って、そう呼んだのである。

――だが、その声に、樹蔭から戻って来たのは二人連れの中間でもないし、六尺や提灯なども持っていなかった。

『――拙者をお呼びですか』

『あっ……失礼した。中小姓の笠原七次郎殿だな』

『左様です』

『見廻りの者と思って呼んだのでござる。――もう寝しずまった今頃、ほかに誰も御邸内を歩いている者はあるまいと思うて』

『何か、御用ですか。――宿直の当番ではありませぬが、今日のように、昼間のうちは御用で疲れ、夜はこの大雪で人の油断しがちな晩こそ、却って要害せねばなるまいと考えて、実は、自分勝手にこうして見廻りに歩いているのでございますから、何ぞ、御用があるなら吩咐けて下さい』