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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
そして三、四名ほどが、ばらばらと加勢に駈けつけようとすると、傍の樹蔭の道から平然と――この総ての人間が皆、一人として血眼になっていない者のない中を――いかにも悠々とした胸をひらいて歩いて来た者がある。一見して、味方でないことはわかったが、余りに落着き払っているので、
(はてな?)
(他家から来て泊り合せている他藩の侍か?)
とも疑われて、それを見た赤穂方の人々も、ちょっと、手出しをためらった。
吉田忠左衛門と小野寺十内が、槍を立てている前を、男は真っ直に向った儘、裏門のほうへ出て行こうとするのである。
屹と、その面だましいを見て、
『ひかえなされ』
と、小野寺十内が、槍の穂先を向けた。忠左衛門がすぐ、
『姓名をたずね申す。おぬしは、何者か、何と申さるるか』
男は怯じる色もなかった。二人の他にも、槍を向けて自分を凝視している鎖襦袢や、火事装束の人影が見えるのである。一歩もうごけない中にいる事も知っているのだ――その中で、にゅっと苦笑して云ったのである。
『この中には、お見知りの方もござろう。それがしは、上杉弾正大弼の家中千坂兵部の股肱の者にて、木村丈八と申すものです』